たけまる・バックナンバー2002/01

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2002/1/7
たけまる

フランス高等教育・その四

先週は,大学の各学年で毎年資格を取っていくという特徴についてお話ししました。 今回は,フランス留学の際に知っておかなければならないであろう 日本との対応関係を見ていこうと思います。

実は,日仏の対応関係は色々な例があるので議論の起きるところです。 日本をはじめ多くの国では,名前は異なるかもしれないけれども, 英語圏の「学士(bachelor)」,「修士(master)」に対応するものがあります。 しかし,フランスの場合,そこが少し曖昧なのです。特に, 日本語訳では,licenceは「学士」になり,maitriseは 「修士」と呼ばれますが,このことがことを複雑にしています。 日本では修士修了までに通算6年かかるのに, フランスでは通算4年で修士がおわってしまうのです! 日本人ってそんなに学習能力がないのか???

実はこれはフランス語のLicence, Maitriseの日本語訳が 「学士」,「修士」なのであって日本のそれらには対応しないのです。 基本的にはやはり修学年数で対応させることになります。つまり, 下表です。

年次 フランス 日本
1-2 DEUG 1, 2年
3 Licence 3年
4 Maitrise 4年
5 DEA DESS 修士課程
6以上 Doctorat   博士課程

ここで,DEAが一年に対し日本の修士が2年の課程で少しギャップがないことも ないです。しかし,この表は,「研究」という側面から見ても妥当でしょう。 日本の大学4年生での卒業研究がMaitriseでの論文に相当し, 日本の修士課程が研究者になるためのベースを勉強し論文を書くDEAに相当するわけです。 そして,Doctoratで博士論文を書いて一応それなりに研究者として一人前になります。 まさに,日本の博士課程と同じですね

しかし,「彼は日本で大学を卒業したのにlicence (maitrise)からやっている」とかって 話を聞きますよね。これはどういうことなのでしょう?
 少なくとも,もし日本の大学でやっていた専門と 異なる専門をフランスで専攻するのであれば,3年次からはじめるのは日本の学士入学と 同じなので普通でしょう。しかし, 同じ専門なのに日本の学年に比べたら下からはじめるひともたまに見られます。 もちろん,自分から懇願して下の学年からはじめるひとは別ですが, 専門によるのかもしれません。例えば,仏文学など フランスで勉強していなければフランスでは認められないような 専門であれば,いくら日本で専攻していてもmaitriseからやらされることも 稀にあるのかもしれません(私は交渉次第だと思いますが)。

また,日本で修士課程をおわっていてもDEAをやらされるひともいます。 この場合は,DEAがDoctoratとよくひとまとめに考えられるため, もしくは担当教官が希望者の学力を計りかね,Doctoratに直接受け入れることを 躊躇われるためと考えられます。 実際,DEAは博士論文を目的にはじめる課程であって, 博士課程一年目とも考えられます。本来は,DEA取得後,博士論文を はじめなければ意味のない課程なのです。
 DEAの登録までならば,基本的に必要とされる前課程のdiplomeを もっているかどうかで登録できるか決まりますが, Doctoratの場合はそれだけでは十分でないことが多いようです。
 日本との対応関係でみれば,DEAというのは,日本の博士前期課程, そして,DESSが就職することを目的とした課程なので, 日本の就職を念頭においた修士課程と言えるのでしょう。 (Doctoratについてはまた今度紹介します)

大学に留学をしようとするとき,フランスの大学はいい加減なところが頻繁にあります。 ある大学では上の表の対応で認められても,別の大学では認められないこともあります。 一般的に理科系であれば,上の表の対応でまったく問題ないですが, 何を基礎能力とすべきか曖昧な学問では少し簡単ではないかもしれません。
 しかし,私のまわりを見ていると,結局は担当教官, 専攻の責任者が認めるかどうかです。つまり,交渉次第です。 自分から下の課程でやるとお願いしてしまえば, 当然licence, maitriseからやることになってしまいます。 強気に交渉することをお勧めします。

注:あるDEA・Doctoratの責任者に聞いたところ, やはり上のように修学年数を考えるのが基本だそうです。

2002/1/14
たけまる

大学教師

タイトルをずっと「フランスの高等教育」で番号を付けてきましたが, 何に関して書いているかわかりにくいので,今回からは内容をもう少し 示すタイトルにします。でも,路線は同じです。

今日は,フランスの大学教師について紹介したいと思います。 日本だと,基本的に大学院を出た研究者が大学教師になり, 助手・講師・助教授・教授の種類があり年功序列的に昇級したりしますが, フランスではどうなのでしょう?

ここで紹介するのは,基本的に肩書きが大学に所属している先生, つまり給料を大学からもらっている先生です。 DEA以上になってくると大学に 所属していない先生が授業したり, 論文の担当教官になったりもしますが,それらの教師はここでは除いておきます。 基本的には次のような種類の先生がいます。

Professeur agrege
 これはpragと呼ばれます。以前のコラムでも少しでてきましたが, agregeとは高校教師になるための資格で,大変難しい競争試験があります。 この資格で大学で教えられるのです(特に,DEUG)。 この教師になるためには,博士号を取る必要はありません。 友人曰く,この教師になるためには,だいたいagrege + DEA + コネ が必要らしいです。
 日本との対応で見れば,教養課程と専門課程が明確に別れている大学の 教養課程の先生にあたるのではないでしょうか?日本では 基本的に,研究者でなければ教養課程の先生にもなれないでしょうけど, フランスでは必ずしも研究者でなくてもいいのです。 高校と大学との垣根が低いことが見て取れます。 日本だと,大学生と高校生では学問的におおきな違いがあるような 感覚にとらわれますが,実際は高校3年と大学1年ではそんなに 変わるはずありませんよね。垣根が低いのはいいことでしょう。

Doctorant
 これは以前にもコラムででてきた,博士論文準備中(博士後期課程)の大学院生です。 フランスでは大学で大学院生が教えることが頻繁にあります。 主にTDと呼ばれる演習授業ですが,たまに,普通の講義でも教えている ことがあるそうです。驚きです。
 日本でもチューター等,ちょー低賃金で学生の面倒を見ることはありますが, 主に補助であって,授業を教えることはないですよね(少なくとも私は見たことない)。 フランスでは教えちゃうのです。 ある意味,大学院生が授業をしてしまうのは「ええんか」って気もしますが, それである程度の経済支援をしている面ではいいかとも思います (時給は200Frsちょいくらいだったと思う)。

ATER
 これは正確には,assistant temporaire d'enseignement et de recherche(直訳すれば, 教育・研究非常勤助手)だったと思います。 これは2年程度(確かではない)の期限付きの助手です。 博士後期課程の3年目からすることができます。 まあ,日本の期限付き助手とほとんど同じでしょう。
 ATERをやっている知り合いから聞いたところ,ATERになれば 次にでてくるMaitre de confeになり易いそうです。

Maitre de conference
 これはconferenceの先生(maitre)だから,日本で言う「講師」かなと思われるかも しれませんが,助教授に相当します。英語には,associate professorと訳されます。 大学の先生の肩書きを見るとこのmaitre de confeの先生がやたらと多い。 若い先生から年寄りまでみんなです。知り合いでは,もう定年退職前で この助教授のひともいれば,博士論文がおわってそのままこの助教授に なったひともいます。条件として年齢は関係なく, 博士論文をもっていれば応募できるようです。 しかし,よく重要視されるのは,教育経験だそうです。そのため,ATERなどで 大学で教えているとなり易いようです。

Professeur
 そして,これはまさに教授ですが,助教授に比べやたらと人数が少ないです。 それだけポストが少ないのでしょう。この教授になる条件には,Habilitationという 博士論文指導資格が必要となるようです。これは博士論文の指導教官になる ことができるための資格で,博士論文のときと同様,論文を書き 審査会を通過しないといけません。意外ともっているひとが少なかったりも します。書くひとは,博士論文修了後,10年程度で書くようです。 これがあるから,教授が少ないのでしょうか?

フランスの大学教師はこのようになっています。 研究者からなる常勤職は助教授と教授のふたつしかないのです。また, 大きな特徴は,感覚的に高校と大学のギャップを埋めているpragの存在ですね。 因みに,高校教師からなるpragは,教養課程の教師のようですが, pragをやりながら博士論文を書くひとが多く,その後,大学の別のポストに つくことは多々あるようです。

いかがでしょう?フランスの大学教師の種類がだいたいわかってもらえたでしょうか? 大学に登録している方は,まわりの先生方を見てみると面白いのではないでしょうか? でも,偏見はいけませんよ。

2002/1/21
たけまる

ミニテル

ミニテルって知ってますか?フランスにいる方なら当然知っているでしょう。 ミニテルとは,1983年からFrance Telecomがはじめた, 電話回線を使って小さな端末から列車の予約, 電話番号検索,petite annonce(個人売買),等の各種情報サービスが受けられるものです。 これはなぜかフランスで大変広まり,いまでもテレビを見ていれば, 懸賞や広告の案内などミニテルの番号3615がでてきます。 大学の登録もミニテルを使う場合が多いです。 参考までに,ホームページは http://www.minitel.fr/ です。興味ある方は見てみてください。

このミニテル,実は日本でも同じシステムを用い,キャプテンシステムという名で 同じ頃に始まったのですが,こっちはさっぱり普及せず 消えていきました。対し,フランスでは,このミニテルがパソコン, インターネットの普及を妨げているとまで言われています。 実際,ミニテル使用者数に比べ,インターネット使用者数は 約半数らしいです。しかし,世界中でコンピュータ,インターネットが普及して来た現在, このミニテルいつまで生き続けるのでしょう?

でも,なぜ日本ではまったく普及せず,フランスでこんなに普及したのでしょう? この要因を探れば,ミニテルの寿命もわかるのではないでしょうか? まず,最大の要因は,France Telecomが初期に,450万台もの端末を 無料で配布したことでしょう。言ってみれば,MicrosoftのWindowsのビジネスと 同じです。つまり,ユーザーを増やしてしてしまえばこっちのものという 商売法です。実際,Macと比べれば大きく劣るWindowsですが,Microsoft社が パソコン本体を作っていなかったために, より多くのパソコンに乗るようにしたのです。 もし,当時,MacOSをどこのメーカーのパソコンにも乗せることができれば (もちろん,アップルはパソコンメーカーだったのでそれは不可能だった), いまは,Macしかなかったでしょう。

話が脱線してしまいましたが,パソコンもまともにない時代に,ミニテルをタダで もらえればみなさん使います。情報供給側もミニテルに対応することで 商売繁盛を狙います。そうすれば,ソフトが増えるわけですから, ユーザーもより使うようになり,またソフトが増えるという, 相乗効果が生まれるわけです。
 実際,日本は,端末が高かったことが普及しなかった 大きな原因のようです。またそれ以外にも, フランスのほうが一般的に予約する機会(列車,ホテルなど)が多いことや, petites anoncesなど日常で必要性のあるものがミニテルでおこなえたということも 原因としてあるのかもしれません。つまり,ユーザーの需要に答えたってことです。

では,今後のミニテルはどうなるのでしょう? 最近は,パソコン用のミニテルがあり, パソコンからアクセスできるようにもなっています (上のサイトからダウンロードできます)。 このこともあって,France Telecomは,これに意外と楽観的なようです。 インターネット使用者数は増え,ミニテル単独使用者数は 減るが,ミニテル自体の使用者数は増えるとにらんでいるようです。

しかし,本当にそうなるかなぁ? フランスではパソコンの普及が,日本より3, 4年遅れていたけど, これからインターネット,e-mailは若者世代からますます拡大していくのは確実です。 実際,数年前までは大学生(特に一年生から四年生)でも パソコンに触れたこともないひとがいてびっくりしましたが, 最近ではやっとレポートなどもパソコン使用が義務づけられて来ました。
 そうして,ミニテル利用者が減り, パソコンミニテル使用者がいたとしても, ソフト側が情報提供の場としてミニテルより インターネットのほうが有益と考えはじめれば,もうミニテルはやばいです。 利用者が減れば,ソフト側も撤退しはじめ,また利用者が減る。 これも普及したときと同じ相乗効果です。

ここであげたのは僕の推測ですが, 10年後あたりどうなっているのでしょう?楽しみです。

2002/1/28
たけまる

Doctoratへの登録

先週は,急に思いついた「ミニテル」について紹介しましたが, 今日はいままでの「フランスの高等教育」の一環で,フランスのDoctoratを 紹介致しましょう。

フランスの大学は,前課程のディプロムをもっていれば 誰でも次課程に登録できます。つまり,入試というものがないのですね。 そして,授業料は全くなく,毎年登録時に登録料が1500Frs (230E)程度 だけかかります。では,博士課程,つまりDoctoratも同じなのでしょうか?
 これは,だいたい同じなのですが, 意外とDoctoratをはじめるのに制約・条件があります。

フランスのDoctoratでは,1998年(確か)からChartes de Thesesというものが 制定されました。「博士論文憲章」とでも訳すのでしょうか。 これは,These(博士論文)をはじめる際の制約を定めるとともに, 担当教官の役割を明記したものです。はじめる際の制約については 以下で詳しく紹介しますが, 担当教官の役割とはDoctorant(博士課程院生)が Theseをスムーズに進めることができるようにすることや, 博士号取得後に就職をしっかりと紹介しなければならないことなどです。 実際フランスでは(日本でも),博士号を取得しても就職がなく進路を変えるひとたちが 少なくありません。
 しかしこのChartesは,各大学が独自に修正できるような柔軟性も もっています。そのため大学によってTheseをはじめる際の条件は 異なります。例えば,基本は同じでも,理系と文系では異なることは多いです。 Theseをはじめる際に重要な条件ふたつを紹介しましょう。

担当教官の承諾
 これは,理系文系を問わずどこでも大体同じでしょう。 担当教官になる先生にあまりにも多くのDoctorantがすでについていたり, 先生が希望者のこと(学力など)をまったく知らなければ, 受け入れにくいのは当然です。特に,外国人留学生が自国でマスターを 終了したのに,前課程のDEAからやらされることがあるのはこのことが大きな理由に なっているのではないでしょうか。

奨学金(financement)
 実は,奨学金を得ていることが条件になることが多いです。 日本ですと,博士課程に入ってから奨学金を申請したりしますが, フランスだとtheseをはじめるために奨学金をまず探さないといけないのです。 グルノーブルですと,UJF(グルノーブル第一)とINPGでは絶対条件と なっています。 しかし,奨学金については,Chartesが大学によって一番違いのあるところでもあります。 基本的に理系の大学であればこの条件が付いており, 文系の大学では「望ましい」程度で必須条件ではないところが多いようです。 実際,グルノーブルのUPMF, Stendhalでは条件に入っていません。

この奨学金についてですが,フランス文部科学省は, 一応すべての分野に対して奨学金 (allocation de recherche)を出しています。 しかし,もらえるのは同じDEAの成績上位者一人, 二人で希望者すべてに行き渡ることは滅多にありません。 しかし,理系であれば,この奨学金以外に, 企業の奨学金や国立研究所独自の奨学金など沢山あります。 このため,理系の大学では絶対条件になっていることが多いのでしょう。 しかし,理系の大学であっても,やる気があれば受け入れるという エラい大学もあります。

ちなみに,理系ではTheseの研究課題は担当教官から与えられます。 担当教官の研究の一部をすることになるわけです。 そのため,担当教官がthese用の奨学金を企業や研究所,地方自治体から 確保し,あるテーマを研究するDoctorantを探すことも多くあります。 しかしそうなると,人気のない分野やお金になりにくい分野は, 理系でも奨学金を得にくいことになります。

やはり,登録の際の一番のポイントは奨学金です。 奨学金さえ確保しておけば,どこかしらの大学でtheseをはじめることができます。 外国人留学生の場合は,専門にもよりますが,DEAでフランス人と成績を 競うのが少し難しいためか,フランス政府給費留学生や自国の奨学金を 得てtheseをやっていることが多いようです。
 来週はdoctorantの研究環境とステイタスについて少々お話ししましょう。

注: この奨学金は外国人でも受けられますが,年齢制限が26歳とあります。 しかしそれ以上でも,何かちゃんとした理由書を付ければ通るようです。


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編集長:山田たけまる takemaru@free.fr




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